(その1/2)家が建つって、誰の喜びなんだろう
更新日:5 時間前
私が子どもの頃に住んでいた家には、お風呂がありませんでした。
家の奥には小さな庭のような場所があって、夏になるとそこで水遊びをしたり、スイカを食べて種を飛ばしたりしていました。
古くて不便な家でしたが、今思い出すと、そこには家族の時間や父の仕事、人が出入りする玄関など、いろいろな記憶が残っています。
そして、その家を建て替えた時に経験した上棟式の光景は、今でも特に強く残っています。
家が一軒建つことは、そこで暮らす家族だけの喜びなのだろうか。
今、自分が家づくりの仕事をするようになって、そんなことを考えるようになりました。
目次
父が図面を描いていた家
家家を入ると、奥の和室にこたつがあり、そこで過ごすことも多かったと思います。
その手前には父の仕事場部屋があり、大きなスチール製で天板が木製の製図台に向かって、父が手書きで図面を描いていました。
母は集金に来た職人さんの奥さんや銀行の担当者さんが来ると、玄関に腰掛けて、お茶を飲みながら話をしていました。
玄関と部屋に入る扉には、私の描いたガンダムやスーパーカーの絵を母が勝手に貼ってくれていました。
「息子さん、絵が上手ですね」
そう言われると、扉のすぐ横には私の机があり、少し恥ずかしかった。
でも、母に「剥がして」と言ったことはありません。
たぶん、私もうれしかったんです。
古い家から、新しい家へ
そんな思い出のある家でしたが、ずいぶん古くなっていました。
雨漏りもしていましたし、天井裏ではネズミやイタチがたびたび走り回っていました。
季節の良い時には、換気に玄関を開けていた時代なので、二階へ寝に上がると、私のベッドで野良猫が寝ていたこともあります。
こちらが驚くと、猫も驚いて逃げていく。
「工務店をしている家とは思えんわ」と家族みんなが思っていましたが、私が小学校5年生ぐらいのとき、父から「家、建て替えるで」と発表すると、家族の顔がパッと明るくなり、家族で喜んだのを覚えています。
「新しい家に住める!」、そのことが何より楽しみでした。
父にとって、生まれた頃から暮らしてきた場所です。
母も結婚してから、そこで長く生活していました。
私には分からない思いが、二人にはいろいろあったと思います。
でも当時の私は、そんなことまで考えていません。
「新しい家に住みたい」
それだけでした。
建て替えのため、近くの賃貸住宅に仮住まいをしました。
学校帰り、クセで何度も元の自宅へ帰ってしまうことが何回もありました。
そのたびに取り壊された自宅を見るのですが、なかなか工事が始まりません。
「工務店あるある」ですが、父は仕事をしながら自宅の建築も進めなければならなかったので、なかなか自分の家に手が回らなかったのだと思います。
「いつ始まるん?」
何度か父に聞いた記憶があります。
やっと始まった
1年ほどして、ようやく重機が入り、地面を掘り始めました。
「やっと始まった」
仮住まいが近かったので、時々現場を見に行きました。
私は中学生になってました。
クラブ活動もありましたし、毎日見に行っていたわけではありません。
それでも、何もなかった場所に鉄骨が組み上がり、数日のうちに大きな建物の形が見えてきた時のことは覚えています。
私は
それまで「ここに新しい家が建つんだ」と頭では分かっていても、実際に形になって初めて、
「ここが自分の家になるんや」
と感じたて、下から何度も見上げていました。
上棟の日
そして、今でも特に強く記憶に残っているのが上棟式です。
天気のいい日でした。
午前中はまだ鉄骨の組み立て工事をしていたと思います。
その一方で、朝から上棟式の準備も進んでいました。
母は料理をつくり、私もお手伝い。
酒屋さんからは大量のグラスを借りました。
ブロックの上に足場板を渡して長いテーブルをつくり、その両側にも足場板を並べて椅子代わりにしました。
親戚や近所の方も料理を持ってきてくれました。
沖縄料理やサーターアンダギーを持ってきてくれた人もいました。
職人さん、仕事関係の方、親戚、近所の人。
私が生まれた頃から知ってくれている人がたくさんいました。
入れ替わりながら、150人以上が来たと思います。
祝いでもらった瓶ビールが何段も積み重なって、まるで壁のようになっていました。
友達と数えたら、100ケース以上はありました。
中学生だった私にとっては、
「ものすごい人数の大人が酒を飲んで騒いでいる」
そんな光景でした。
今になって思うこと
当時の私は、新しい家に住めることがうれしかったし、自分の部屋ができることも楽しみでした。
だから、上棟式に集まった人たちのことを深く考えたことはありませんでした。
でも今、自分が家づくりの仕事をするようになって、あの日の景色を思い出すことがあります。
なぜ、あれほどたくさんの人が集まってくれたんだろう。
自分たちが住む家ではありません。
それでも料理を持ってきて、一緒に飲んで、笑って、家が建つことを祝ってくれた。
私の記憶に残っているのは、完成した家の設備や材料より、その人たちの姿です。
家は、そこで暮らす家族のためにつくるものです。
でも、家が一軒建つという出来事は、本当に家族だけのものなのだろうか。
最近、そんなことを考えるようになりました。
あの日、父の家が建つことを、あれだけ多くの人が一緒になって喜んでくれた。
その光景が、今の私が考える家づくりのどこかにつながっているような気がしています。
まだ、うまく言葉にはできません。
だからもう少し、自分の体験をたどって書いてみようと思います。
家づくりを考え始めた方へ
家づくりを考えると、間取りや設備、性能、予算など、決めることがたくさん出てきます。
でも、その前に「どんな暮らしがしたいのか」「誰と、どんな時間を過ごしたいのか」を考えることも大切だと思っています。
まだ注文住宅にするのか、建売にするのか、リフォームにするのか、答えが決まっていなくても構いません。
何を大切にしたいのか。
なぜ、そうしたいのか。
予算や土地、建物の条件も含めて、一緒に整理しながら考えていきます。




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